たくあん

2025/12/26

 今では日本料理と思われている食物であっても、そのルーツをたずねると、 仏教伝来と一緒に中国から渡ってきたものが多いことに驚かされます。
 納豆や豆腐、お茶や饅頭など、庶民の食生活に欠かせない食物の多くは、僧侶が帰朝する時に中国から持ち来たったものであることは、皆さまもすでにご存知でありましょう。僧侶達は教えを伝えるのみならず、文化や習慣、さらにはこのような食物まで伝えてくれたのです。日本文化の底に仏教が深く根付いているといわれる所以です。
 さて、そのような食物とは別に、日本の僧侶自身が工夫して作りだし、世間に広めた食物もあります。
 皆さまは「沢庵」と聞くと何を想起されるでしょうか。きっと沢庵漬を思い出されるでしょう。これこそ日本僧の発明した食物の代表的なもので、江戸時代の傑僧であった沢庵禅師の名前に因んで命名されたものにほかなりません。
 沢庵禅師は但馬国(今の兵庫県北部)の出身で、臨済宗の僧として江戸時代初期に、京都の大徳寺をホームグラウンドとして活躍されました。その名声は遠く江戸にも聞こえ、寛永十五年には品川・東海寺の開山として招かれております。沢庵禅師を迎えることのできた三代将軍・徳川家光公はことのほか喜んで、東海寺に幾度となく足を運ばれましたが、その節に将軍がはじめて口にされたのが、この沢庵漬でありました。
 なま干しの大根に糠と塩を加え、錘の石で押さえて作った漬物ですが、家光公はこの味を大変お褒めになり、沢庵禅師の名前をとって「沢庵漬」と命名され、江戸中に広められたのだそうです。それが全国へと伝わって、やがて日本中の家庭で作られるようになったわけです。
 一説には「貯え漬」が転じて「たくあん漬」になったともいわれますが、これはすべての漬物にいえることですから妥当な説とは言えないようです。これから沢庵漬を食べる時には、ぜひ沢庵禅師を思い出すとともに、さらに禅の奥深い教えにまで思い至り、心のふるさとに漬かってほしいと存じます。

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